2020年01月16日
2020年1月8日(水)、帝京大学医真菌研究センターと株式会社ゲノム創薬研究所の共同研究により、新たに8つの黄色ブドウ球菌の病原性に関わる遺伝子の発見に成功し、その成果が、米国感染症学会(IDSA)が発刊するJournal of Infectious Diseasesの電子版に掲載されました。
黄色ブドウ球菌はヒトに常在することがある細菌で、時に病原性にかかわる遺伝子発現を活性化しヒトに感染することがあります。黄色ブドウ球菌は臨床において多剤耐性菌(MRSA※1)が問題となっており、世界的にも耐性菌による死亡者が多い病原体で、WHOによる新規治療薬の開発が必要な多剤耐性菌のリストにも掲載されています。本学医真菌研究センター所長 関水和久らのグループは、株式会社ゲノム創薬研究所の協力を得てカイコを感染動物モデルとして用いて、病原性の発揮に必要な遺伝子の探索を行いました。病原性が高いMRSA株であるUSA300株の遺伝子破壊ライブラリーのうち、機能がわかっていなかった380遺伝子の破壊株から、カイコでの殺傷性が低下した10株を同定しました。それらについてマウスを用いた臓器への定着性を検討したところ、8つの遺伝子破壊株が低下していました。これらの遺伝子産物は、あらたな治療薬の開発の標的となり得るものです。
病原性細菌の病原性の発揮機構は、宿主と病原体の複雑な相互作用の結果として観察されるため、試験管内での評価は病原性の一側面しか観察できず、個体を用いることが必須です。一方で、哺乳動物モデルを用いて多数の候補遺伝子破壊株から病原性因子を同定することは、動物愛護の観点から倫理的に許されることではありません。今回の研究が見出した結果は、カイコモデルを用いて黄色ブドウ球菌の病原性をほぼ正確に評価できることを示しており、多数の個体を用いた病原性因子の探索が可能であることを示しています。
カイコは、飼育も容易でほどよい大きさがあることから、研究者の手で取り扱うことが可能で、生化学的、薬学的な解析が容易な動物です。また、養蚕業において利用されている産業用昆虫であり、非常に安く大量に入手することが可能な、実験動物代替モデルとして利用可能です。本モデルを用いることで、真菌の病原性に関与する遺伝子の同定も現在進めています。
なお、本研究は主に日本学術振興会 基盤研究(S) JP15H05783によって得られた研究成果です。
【原著論文】
Paudel A, Hamamoto H, Panthee S, Matsumoto Y, Sekimizu K. Large-scale screening and identification of novel pathogenic Staphylococcus aureus genes using a silkworm infection model. J Infect Dis 2020.